CONCEPT

 


私の作品は、この世界とはいったいどんな場所で、そこに生きる我々とはどのような存在なのかを考えながら描いたものです。

表層的なイメージの底の目には見えない社会構造や、意識されないレベルの我々の立ち位置なども含めて
隠喩や象徴、シュルレアリスムやポストモダンの方法論を参考にしながら表現してきました。

世界の本質を描くという姿勢は古来から続く画家の基本の構えだと私は思っています。

古典的美学から続くミメーシスの絵画は、この意味でまさに真実を写す鏡であり、
ミメーシスが単に目の前の視覚映像を模倣するのではなく、
その本質を再構成して捉え直し、呈示することだとされてきました。

慌ただしく流れてゆく不確かなこの世界の現実を、
普遍的で全体的な地平において描き出すことは芸術家の重要な務めです。
絵画においては、それは日常的で個人的な感覚と社会的歴史的な感覚を結びあわせ、
視覚表現として再現する作業だと私は考えています。

絵画的な表現の強みは、現代の日常的な意識的態度―分析的で効果・効率を計算する意識と世界観―に対して、
身体性や無意識、社会システムや経路依存性を含めた
より構造的で全体的な世界像を、一望できる形で提示できる点にあると思っています。

芸術は世界と私、夢と現実、内部と外部、社会と個人などの強固な区別をも乗り越え、
この世界の現実とそこで生きることの真相を問いかけることができるものだと、私は信じています。

モリケンイチ